リアルワールドデータとは医療ビッグデータを指し、臨床現場で得られる診療行為に基づく情報を集めたものである。これは、疾患理解の促進や医療の質の向上を含め、患者の状況を改善するために有益な情報となる。現在、パーキンソン病患者においてもリアルワールドデータを収集する試みがなされており、リモートモニタリングでのデータ収集方法としてスマートフォンを用いた方法が注目されている。

パーキンソン病関連では、リアルワールドデータとして、音声、指タッピング、歩行(例えば歩幅の変化)、バランス、転倒、反応時間、記憶などがスマートフォンアプリでリモートに収集されている[1-6]。得られたデータを、機械学習を用いて解析しスコア化すると、歩行因子がもっともスコアに影響を与え、このスコアはUnified Parkinson’s Disease Rating Scale (UPDRS) total scoreやその運動スコア、Up & Goテストのスコア、ヤール分類と強く相関し、またl-ドーパ治療による改善も示されている [1]。スマートフォンで収集された歩行データは、自己申告したUPDRSのADLスコアと強く関連するとの報告もある[2]。一方、指タッピングは自己申告のパーキンソン病症状を代表する指標であり、クリニックでの病状評価スコアであるUPDRSと強く相関することも報告されている[3]。また、興味深い研究として、スマートフォンアプリでパーキンソン病患者の軽度認知障害を検出するものや[4]、スマートフォンで食事内容を写真撮影したものを深層学習にて解析するアプリにかけることよって摂取栄養を評価する試みなども、パーキンソン病患者に応用されようとしている[7]。

スマートフォンアプリを用いたパーキンソン病患者の歩行・バランスなどの評価については、この手法のレビューにおいて非常に有効で良い信頼性と識別能を持つことが示されている[5,6]。リアルワールドデータの正確な解釈がリモート評価で可能かどうかは注意深く検討する必要があるが、スマートフォンを用いた方法は、客観的でテーラーメイドな病状把握を頻回に行う際に有効で、臨床上のケアや新たな治療法の評価に役立つと示唆されている[3]。

一方で、現状ではこのようなデータに反映される群は白人が多く、裕福かつ教育を受け大学病院を受診するような患者群であるため、データには社会的・経済的なバイアスが内在する可能性があること、またプライバシーにより配慮が必要なことなどが問題として挙げられている[5]。

参照文献

[1] Zhan A., et al. Using smartphones and machine learning to quantify Parkinson disease severity: The mobile Parkinson disease score. JAMA Neurol 2018;75:876-880. doi: 10.1001/jamaneurol.2018.0809

[2] Zhang H., et al. Deep learning identifies digital biomarkers for self-reported Parkinson’s disease. Patterns 2020;1:100042. https://doi.org/10.1016/j.patter.2020.100042.

[3] Omberg L., et al. Remote smartphone monitoring of Parkinson’s disease and individual response to therapy. Nat Biotechnol 2021. doi: 10.1038/s41587-021-00974-9.

[4] Rosenblum S. et al. DailyCog: A real-world functional cognitive mobile application for evaluating mild cognitive impairment (MCI) in Parkinson’s disease. Sensors 2021;21:1788. https://doi.org/10.3390/s21051788.

[5] Dorsey ER, et al. Deep phenotyping of Parkinson’s disease. J Parkinsons Dis 2020;10:855-873. doi: 10.3233/JPD-202006

[6] Abou L., et al. Gait and balance assessments using smartphone applications in Parkinson’s disease: a systematic review. J Med Syst 2021;45:87. doi: 10.1007/s10916-021-01760-5.

[7] Mezgec S. & Seljak BK., NutriNet: A deep learning food and drink image recognition system for dietary assessment. Nutrients 2017;9:657. doi:10.3390/nu9070657.